経営学入門

経営学入門

はじめに

■本「経営学入門」は講義のレジュメ・資料です。受講者の利用に供します。
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     《目 次》

00授業計画
01テーラーシステム
02フェイヨールの管理過程論
03人間関係論
04マズローの欲求階層説
05マグレガーとハーツバーグ
06バーナードの近代組織論
07フォレットの管理論
08ドラッカーのマネジメント論
09ドラッカー新訳『マネジメント』①
10ドラッカー新訳『マネジメント』②
11ドラッカー新訳『マネジメント』③
12経営学における人間観・組織観レジュメ
 

00授業計画

経営学入門 授業計画
工学院大学 堀越芳昭

授業のねらい及び具体的な達成目標
   経営学入門として,経営学固有の対象(企業と経営)と方法,経営学説の発展を学ぶことを通して,経営学の基本概念・基礎理論を理解する。具体的な達成目標は以下のとおりである。
 (1)経営学の学問的特質を理解する。
 (2)企業と経営の概念を把握する。
 (3)経営経済学としてのドイツ経営学の特質を理解する。
 (4)マネジメントとしてのアメリカ経営学を理解する。
 (5)日本経営学の特質を把握する。
 (6)現代において経営学の果たす役割について理解する。

1. [ガイダンス]現代における経営学の意義について理解する。
2. [経営学の学問的特質]経済学・社会学等と比較した経営学の特質と体系について学ぶ。
3. [経営学の対象方法]経営学の対象である企業と経営の概念を理解する。
4. [産業社会の特質と思想]経営学成立の背景としての産業社会の特質を理解する。
5. [ドイツ経営学の発展(1)]ドイツ経営学の背景と特質について学ぶ。
6. [ドイツ経営学の発展(2)]シェアーとニックリッシュの経営学を学ぶ。
7.[アメリカ経営学の発展(1)]アメリカ経営学:テーラーシステムを学ぶ。
8.[アメリカ経営学の発展(2)]アメリカ経営学:管理原則論・管理過程論を学ぶ。
9.[アメリカ経営学の発展(3)]アメリカ経営学:人間関係論を学ぶ。
10.[アメリカ経営学の発展(4)]アメリカ経営学:行動科学的管理論を学ぶ。
11.[日本経営学の発展(1)]日本経営学の生成過程
を理解する。
12.[日本経営学の発展(2)]日本経営学の発展過程を理解する。
13.[現代の経営学説]現代のマネジメント論を学び、その役割について学ぶ。

授業の進め方注意等
<成績評価方法及び水準>
  定期試験80%、レポート等の課題20%、計100%で最終成績を評価する。
<教科書>開講後指示する。
<参考書>「現代企業の構図と戦略」松野・小阪編(中央経済社)
 

01テーラーシステム

1.テーラーシステム

(1)背景
・近代科学の思考形式
観察
分析と総合-定性的研究
測定-定量的研究
実験
因果律
・機械文明の発達:19世紀後半
    電話、蓄音機、自動織機、
     電気機関車
 ・怠業問題=親方請負制度の崩壊
(2)生涯(F.W.テーラー)
1856年 弁護士の子として生まれ1874年 ハーバード大学法学部合格、
         目の悪化により入学断念、ポンプ工場見習い
1878年 ミッドベール製鋼工場に入る
1882年 職長となる
1884年 結婚、初めて出来高払を導入
1887年 技師長となる
1890年 ミッドベール製鋼を去る
1893年 コンサルティング・エンジニアと称する
1895年 「出来高払制私案」
1898年 ベスレヘム製鋼に招かれる
1903年 「工場管理」
1911年 「科学的管理法の原理」
1915年 死去
(3)内容
怠業の原因 ①増産すれば失業するという
労働者側の誤解
②まちがった管理法
③非能率的な目分量式の作業方法
課業管理-「高賃金・低労務費」の実現、
         労使双方の精神革命・労使協調
          優秀な労働者の課業成績を基準と
してそれ以上を達成したものに報
奨金を与える
     ①標準作業量の決定ー時間研究・動作研究
 ②差別的出来高給制度
③計画部門の設置ー課業の設定や計画職能
 ④職能的課長制度

(4)問題
①経営管理といっても現場管理・労務管理・賃金管理に局限されている
②能率と標準化の論理(3S原則)
単純化(Simplification)
専門化(Specialization)
標準化(Standardzation)
③産業主義

(5)関連問題
①フォードシステム:「高賃金・低価格」
a.オートメーション b.代替部品
  大量生産・大量消費・大量廃棄の現代資本主義のシステム
②21世紀への展望
・ボルボ方式 ・自主管理
・協同組合方式 ・トヨタ方式
・参加型   ・第3のイタリア方式
・労働者所有(ESOP,従業員持株制度)
 

02フェイヨールの管理過程論

2.フェイーヨールの管理過程論

A.生涯
 1841年 フランスの中流家庭の子として生
1860年 サン・テケエンヌ鉱山学校卒業,コマントリー・フールシャンボー鉱山会社入社
 1880年 総支配人に就任
1888年 社長に就任
1916年 『産業並びに一般の管理』発表
1918年 引退
1925年 死去

B.内容
1. 企業活動の分析
1)技術的職能(生産・製造・加工)
2)商業的職能(購入・販売・交換)
3)財務的職能(資本の調達と管理)
4)保全的職能(財産・人員の保護)
5)会計的職能(財産目録,貸借対照表,
    原価,統計など)
6)管理的職能(予測・組織・命令・
          調整・統制-管理の要素)
2.能力の分析
 1)肉体的な資質-健康・たくましさ・器用
 2)知的な資質-理解,学習能力・判断力・
        知的たくましさと柔軟性
 3)道徳的資質-気力・堅実・責任・決断・
        犠牲・機転・威厳
 4)一般教養
 5)専門的知識-技術的・商業的・財務的・
 管理的活動に関する知識
 6)経験-事業の実務から得られる知識
3.管理原則
1)分業 8)集中
2)権限と責任 9)階層
3)規律 10)秩序
4)命令の統一 11)公平
5)指揮の統一 12)従業員の安定
6)個人的利益の   13)創意 
   全体的利益への従属
7)報酬 14)従業員の団結
4.管理要素
1)予測(計画)
2)組織
3)命令
4)調整
5)統制

C.成果と問題
①管理過程論の出発:今日ではマネジメント・サイクル論へ
②テイラーシステムの批判
③管理要素・管理原則論-管理そのものに科学的メスをいれる
④作業管理ではなく全般管理・経営管理

D.関連問題:管理原則(追加)
統制の範囲原則(スパン・オブ・コントロール)
 専門化の原則
   三面等価の原則(権限・責任・義務)
   例外の原則 

E.管理原則論
①専門化の原則
  経営目的達成のために必要な職務を分割し、各構成員が単一の活動に従事できるように考慮し
て配分しなければならない。
  ・熟練度が迅速に進められ、生産効率↑
  ②命令一元化の原則
  職務の担当者は、ただ一人の管理者からのみ命令を受けなければならない。
・複数管理者の命令による担当者の混乱回避
・権利闘争の回避
③階層組織の原則
  最高の権威者から最下位の従業員に至る職務担当者の情報伝達の経路を設けなければな
   らない。
  ・確実な情報伝達の必要性と命令統一の確保に役立つ
④管理の幅の原則
  人間の持つ管理能力には限界があるから、一人の長の下における部下の人数を限定し、これを
適正に保つことを要請する。
・部下のコントロールについて、適正な管理を保持することが可能
⑤責任と権限の一致の原則
   各成員に付与される責任と権限は、常に量的に一致しなければならない。
⑥例外の原則
  日常的・反復的な仕事に関する権限を位に委譲し、例外的な事項に対する決定権または統
帥権のみを上級上級管理者に留保すること。
   ・上級管理者の意思決定の合理性確保
 

03人間関係論

3.人間関係論

メーヨーの生涯と業績
  メーヨー George Elton Mayo 1880‐1949
 産業社会学者。オーストラリアのアデレードに生まれる。アデレード大学で医学,心理学を専攻, 1911 年にクイーンズランド大学の論理学,倫理学,心理学の講師となり,19 年には新設の哲学講座の教授になった。 22 年にアメリカに渡り,ペンシルベニア大学の研究員を経て, 26 年にハーバード大学ビジネス・スクールに招かれ, 29 年から 47 年まで教授として,調査研究と後進の指導に大きな貢献をした。最初は産業心理学や産業生理学の立場から産業における人間個人の諸問題を研究していたが, ホーソーン実験Hawthorne experiments を契機に産業における人間関係の分析に研究を発展させた。
  この実験は,シカゴのウェスタン・エレクトリック社のホーソーン工場で 1927 年から 32 年に行われた。産業心理学の手法を使い,作業の物理的環境や生理的諸条件が生産能率に与える影響を究明することが当初の目的であった。しかし従来の定説をくつがえすような結果があらわれ,その意味でこの実験は失敗であった。そこでメーヨーはじめハーバード大学のレスリスバーガーFritz Jules Roethlisberger (1898‐ ) たちの指導により,ひきつづき 5 年以上の実験の結果,生産能率に従業員の態度や感情が大きな影響を与えることがあることと,それが企業内の人間関係と密接に関連しているという〈社会心理的要因〉の重要性を実証した。この一見あたりまえのことを科学的に立証し,これによって企業内の従業員の行動や態度を理解する〈人間関係論〉という新しい立場を開拓し,その重要性を認識させたところにこの実験の画期的な意義がある。
  さらに,産業における社会心理学的側面を科学的に探究する産業社会学を成立せしめ,これは実務の人事・労務管理面では人間関係管理に発展していった。また,経営学の分野だけでも集団関係論,人事管理論,組織論,リーダーシップ論,労使関係論,マーケティングのモティベーション論 (動機づけ) などの研究に多大の影響を与えている。
ホーソン実験(1924年~1932年)
ウエスタンエレクトリック社のホーソン工場での実験

1.照明実験(1924年11月~1927年4月)
 国立科学アカデミーの全国学術調査協会のイニシアチブで行われた,照明の質・量が作業能率にいかに影響するかの実験であったが,予想に反して,照明と作業能率には有意味な関係を発見できなかった。そこで,照明だけではなく,室内の温度,湿度,睡眠時間,食事,休憩時間,賃金の支払い方法などの作業条件を加味して実験したが,これらが能率や製品の品質に対してなんらの有意味な関係を発見することができなかった。この予想外の結果を解明するために,エルトン・メイヨーやフリッツ・レスリスバーガーらのハーバード・グループが招かれて実験に加わることになった。

2.継電器組立実験(1927年4月~1932年月)
6人の女子工員を対象に,各種の物理的作業条件と作業能率の関係を調べたがここでも作業能率は,これらの作業条件とは無関係に変化し続けた。そこからメイヨーらは次のような結果を得ることができた。
①従来の強圧的な監督に代わって寛大な民主的な監督がおこなわれ,とくに作業中の自由な会
話が許されたことによって心理的な満足が生じた。
  ②また自ら重要な実験に協力しているという参画意識が生まれた。
  ③さらに親密な自発的グループが発生したことによって会社に対する協力的な態度が生まれた。

3.面接実験(1928年9月~1930年5月) 
職場における監督方法の改善を意図して,合計21,126人の従業員を面接し,かれらの不平や不満を分析した結果,次のことが明らかになった。従業員の態度は感情の体系によって支配されており,この感情の体系は個人的経歴や社会的組織を通じて形成され表現されるのであるから,かれらの態度を理解するためには,かれらを集団的・社会的な全体状況のなかでとらえなければならない。

4.バンク巻取実験(1931年11月~1932年5月)
 集団請負制で働く3種類の作業集団を観察調査した結果,組織には明文化された公式組織のほかに,自生的な非公式組織が存在し,これが,企業が示す規範とは別の集団規範をその成員に課しており,かれらはその規範にしたがって生産高の抑制をしていることが分かった。

人間関係論の主要命題
【主要命題】
(1)作業能率に影響を与えるのは,労働者の感情である。
(2)この感情に影響を与えるのは,非公式組織(インフォーマル組織)である。

メーヨーの基本理念
『産業文明における人間の問題』
 (1933年,邦訳:日本能率協会,1946年)
人間関係論の根本的理念の確立。
  社会や集団との一体感を失った個人の増加や,集団間の対立の激化という社会的解体の徴候を,技術的技能に対する社会的技能の立ち遅れに求め,人間の自発的な協働関係を確保するためには,社会的技能を発展させて,両技能のバランスを回復する必要がある。

レスリスバーガーの理論
『経営と勤労意欲』
(1948年,邦訳:ダイヤモンド社,1954年)
人間関係論の理論的フレームワークの確立。
企業体を技術的組織と人間組織に分け,人間組織をさらに公式組織と非公式組織にわける。公式組織は企業の目的を達成するため,「費用と能率の論理」に基づいて明確に規定され,成文化された組織である。非公式組織とは,「感情の論理」にもとづいて自然発生的に生じる人間の社会的関係である。両者は相互依存的関係にある。

公式組織と非公式組織
・公式組織の中に非公式組織が形成される。
・公式組織と非公式組織は相互依存の関係にある。
・非公式組織が発展して公式組織に転化する。
〔非公式組織の意義〕

人間関係論の意義と限界
 

04マズローの欲求階層説

マズロー Abraham Harold Maslow 1908‐1970

  アメリカの心理学者。 1951 年以降ブランダイス大学教授。アメリカ心理学会会長も務めた。精神分析と行動主義に対する〈心理学における第三勢力〉である実存的・人間学的心理学の旗頭の一人であり, 《人間性心理学雑誌》の創刊に関与した。動物の行動や病的な人格よりも,成熟した健康な人間について研究すべきことを主張し,自己実現,創造性,至高体験などについて研究した。
   A.H.マズローは、人間は、生理的要求がみたされれば安全をもとめる要求が生じ、それがみたされれば所属や愛の要求が生じるというように、その要求が階層性をもっていると考えた。そして、これらの要求は外部的にみたされれば鎮静化するところから、欠乏動機づけとよんだ。それらがある程度みたされれば、今度は自己実現要求が生じてくる。これはそれがみたされれば鎮静化するといった性質のものではなく、不断に拡大する要求であるところから、マズローはこれを成長する動機づけとよんだ。
  A.マズローの欲求階層説:
『人間性の心理学』(1954年,邦訳1971年))
自己実現の欲求(自分の可能性の実現)
自我の欲求(自尊心・尊敬)
社会的欲求(愛情・帰属,人間関係)
安全の欲求(安全・安定,自己保存)
生理的欲求(衣食住)

■マズローの自己実現の意義と問題点
   意 義:自己確立と自己超越
   問題点:わが国導入における一面化   
 

05マグレガーとハーツバーグ

D.マグレガー(1906~1964)のX理論・Y理論
敬けんな牧師の祖父は,ホームレスの救済,マグレガー協会を設立する。伯父は,同協会を引き継ぎ慈善事業をはじめ,大学院をでるまでダグラスの学資の面倒をみる。父は説教師で,マグレガー協会の理事となって社会的に見下されていた700人の人々に食事と宿を与えるという仕事をし,ダグラスは学校をおえるとその事務を手伝った。人間愛に満ちた家庭環境で人間の潜在能力を信じることが信念となる。1932年ハーバード大学大学院で心理学を選考し,1935年博士号を取得する。
  1937~1948年マサチューセッツ工科大学に務め,教授となり,1943~1948年同大学産業関係学部長,1948~1954年アンチオーク大学学長,1954年マサチューセッツ工科大学経営学部,1957年論文『企業の人間的側面』、1960年著書『企業の人間的側面』公表(邦訳1966年)。

X理論(伝統的見解)
 人間観(仕事嫌い,命令・強制による仕事,責任回避)
管 理(階層原則による伝統的管理,「アメとムチ」,統制による管理)
 マズローの欲求階層説のうち生理的欲求と安全性の欲求を満たすだけ。誤った人間観であり,社会的欲求や自我の欲求が満たされないことから生じる病気である。分権,目標管理,相談づくの監督,民主的リーダーシップもX理論から生まれたもの。テーラーの人間観,経済人仮説,機械化原理。

Y理論(新しい見解)
人間観(仕事は人間の本性,自発的労働,自己実現欲求,自己責任,創意)
管  理(組織目標と個人目標の統合,「参加的経営」,目標による管理)
システム的な人間観による,内在的欲求に基づく,自己統制(self-control)自己命令(self-direction)の,人間の潜在能力を強調し,人間の成長を重視し,産業社会における人間の役割を高める理論,「人間中心の経営」理論

ハーツバーグの動機づけ・衛生理論:
『仕事と人間性』(1966年,邦訳1968年)
仕事上の満足:仕事の達成,承認,内容,
責任,昇進ー「動機づけ要因」
職務上の不満:会社の政策や管理,監督技術,給与,対人関係,上司,作業条件
ー「衛生要因」「環境要因」
管理の方法ー動機づけ要因を志向する管理,職務充実(ジョッブ・エンリッチメント)
 

06バーナードの近代組織論

 バーナード Chester Irving Barnard 1886‐1961
  アメリカの実業家で,近代的組織論の始祖。マサチューセッツ州モールデンに生まれ,ハーバード大学を 3 年で中退した後,アメリカ電話電信会社 (ATT) に入社し,41 歳で同社傘下のニュージャージー州ベル電話会社の初代社長となった。1938 年,みずからの社長としての経験と思想を,その主著《経営者の役割》に体系化した。当時ハーバード大学の教授であった L.J.ヘンダーソンの影響を受けた彼は,〈人間が個人として達成できないことを,他の人々との協働によって達成しようとしたときに組織が生まれる〉と考え,〈協働システム〉をキー概念として,システム論にもとづいた組織と管理の一般理論を展開した。彼の研究成果はのちにH.A.サイモンに受け継がれ,バーナード=サイモン理論として近代組織論に大きな影響を与えた。

近代組織論①
〔人間観〕ー〔協働体系の理論〕ー〔公式組織の理論〕ー〔管理の理論〕

人間観:自由意思の選択力,能力の制約
 個人が能力以上の目標を達成しようとするところに協働体系が形成
1)協働体系
物的,生物的,個人的,社会的な構成要素の複合体。その抽象概念ー「組織」

近代組織論②
2)組織観
  「二人以上の人びとの,意識的に調整された活動や諸力のシステム」
組織の三要件
①協働意欲 誘因≧貢献
②共通目的 組織成立の前提条件かつ組織活動を調整統合する基盤
③コミュニケーション 権限受容説

近代組織論③
3)組織存続条件
構成要素のバランス(内的均衡,外的均衡)
組織の有効性と能率の確保
有効性:組織目的の達成
能率:成員の個人的動機の満足

近代組織論④
  組織には、全ての職位にわたって意思決定があり、組織の本質的過程はこれらの意思決定が相互作用しあう過程である。
合理的意思決定
 個人的意思決定
 組織的意思決定
 道徳的側面(目的自体の選択にかかわる)
 機会主義的側面(合理的な手段の選択にかかわる)
  戦略的要因の重要性

近代組織論⑤
5)経営者の役割
 組織の内的・外的均衡を確保して組織を維持していくこと。組織目的を設定し,コミュニケーション・システムを確立し,人びとの協働意欲を確保して組織成立の要素を整備するとともに,適切な手段の選択によって組織目的を達成して有効性を確保し,あわせて,組織における効用の創造・変形・分配を通じて各人の動機を満足させて能率を確保することである。このような経営過程を遂行するには全体感覚・バランス感覚が必要であるが,それは技術的・論理的というよりは芸術的・審美的なものである。さらに経営者には,組織における道徳準則の創造という本質的な責任が求められている。
 

07フォレットの管理論

フォレット(Mary Parker Follett)1868~1933
  政治学,社会学,心理学,哲学を学ぶが,経営管理に関しては晩年に取り組む。その業績には,30年に及ぶ社会事業,ボランティア活動が大きく影響している。その基調とするところは,「機能的思考」を基盤として,「機能」「調整」「統合」などを基本として,人間の協働一般に妥当する管理の科学である。
(主著)・『創造的経験』1924年・『組織行動の原理:動態的管理』(昭和47年邦訳)

フォレットの管理論①
(1)権限機能説
①権限法定説
②権限受容説
③権限機能説
  ・機能・責任・権限は三位一体。
・職位による階層ではなく,機能の分担関係である。
 ・権限は分散して存在している。(分散説)
・権限は専門的機能に関する知識と経験に伴うのであり,組織の階層上の特殊な職
   位に帰属するのではない。

フォレットの管理論②
(2)命令の非人間化-「状況の法則」
専断的命令の弊害
効果的な命令授与
①命令の非人間化。
②職務技術の教育を命令に代位させる。
③命令とともに理由を与える。
④命令の背後にある目的を知るようにする。
命令は職位から発せられるのではなく,機能・仕事から発せられる。個人の命令に従うのではなく,機能と仕事の知識と経験に従う。
リーダーシップ論
①職位によるリーダーシップ
②個性によるリーダーシップ
     ③機能によるリーダーシップ-分散説

フォレットの管理論③
(3)調整の原則
分散化した機能をいかに結合して機能的統一体を形成するか。
①状況のうちにある全ての要素の交互関係としての調整(自己調整の原則)
②直接的接触の原則
③早期調整の原則
④継続的過程としての調整

フォレットの管理論④
(4)統合の原理
コンフリクト(conflict)の不可避性と存在意義の容認
コンフリクトの処理方法
①抑圧
②妥協
③統合
  相互の欲求が同時に満たされるような第3の方法を発見・創造すること。そのためには相違点を明
確にすること。
(オープン,比較,再評価,要求の分析,シンボルの検討,言葉の真の意味の把握,あいまいに
なっている真の要求の把握)
 

08ドラッカーのマネジメント論

ドラッカー:
   ドラッカー Peter F.Dracker 1909~ ウィーン生まれのアメリカの経営学者、経営コンサルタント。ギムナジウムを卒業後、実社会にでるが、1929年にドイツのハンブルク大学法学部に入学し、国際法をまなぶ。20歳でフランクフルト大学に移籍、31年に同大学で法学博士号を取得した。
  ナチスの台頭をみたドラッカーは、1933年春にイギリスにわたり、エコノミストとして活動をはじめる。このときに経済史や法制史をまなび、現代の代表的な社会制度としての企業に関心をもった。その後、37年にイギリスの新聞特派員とヨーロッパの投資信託顧問としてアメリカにわたった。
   1939年にサラ・ローレンス大学の経済学と統計学の非常勤講師となり、42年にバーモント州のベニントン大学の哲学・政治学の教授に就任、同時にマーシャル参謀総長の下でスペシャル・アドバイザーになった。43年にはゼネラル・モーターズ社(GM)のコンサルティングをやり、この年にアメリカ国籍を取得。50年にはニューヨーク大学のビジネス・スクールの教授に就任し、51年にはゼネラル・エレクトリック社(GE)のコンサルティングを経験した。71年にはクレアモント大学に移籍。
   ドラッカーの著作はひじょうに多く、代表的な著書に「経済人の終わり」(1939)、「産業人の未来」(1942)、「現代の経営」(1954)、「創造する経営者」(1964)、「断絶の時代」(1969)、ターブレントが流行語になった「乱気流時代の経営」(1980)、「マネジメント・フロンティア」(1986)、「ポスト資本主義社会」(1993)などがある。
   ドラッカーの研究は現代を大量生産の時代と位置づけ、この中の企業を社会的な制度として把握し、これに応じたマネジメントのあり方を研究したもので、こういった点から彼の著作は企業経営管理と文明批評ないし文明社会論という評価をうけている。ドラッカーは自身をたんなる経営学者ではなくソーシャル・エコロジストと位置づけている。

ドラッカーの学説①
『現代の経営』1951年,邦訳1965年、『マネジメント』1974年,邦訳1974年
中心的問題=事業経営(マーケティングと革新を行って顧客を創造する)
効果的経営(社会の欲求の実現),そのための能率的経営
事業の目的=「顧客の創造」
①マーケティング
②革新(より経済的な製品やサービスの提供)

ドラッカーの学説②
経営者の職能
 ①事業の経営:事業は、現在と将来の顧客が
     決定する。
事業目標:市場における地位,革新,生産性
と寄与価値/物的資源と財源,収益性,
経営管理者の能力と育成/労働者の能力と
態度,社会に対する責任
②経営管理者の管理
ⅰ)目標による管理:事業目標を中心として,
目標と自己統制による経営
ⅱ)現実的な職務構成ー寄与測定が明確に
なるように
ⅲ)精神:高い目標,働きがい,昇進,品性
高潔
ⅳ)統治機関
ⅴ)経営管理者の育成
ⅵ)健全な組織構造:(目的)事業-
    (手段)組織構造の適正化/
連邦的分権制
③働く人間と仕事の管理:人的資源の全面的
     活用/人間関係論の批判
経営者の社会的責任:「公共の利益と企業の利益、社会的利益と私的利益の一致、調和」
ドラッカーの学説③近年の業績から
①『非営利組織の経営』(訳1992年,ダイヤモンド社)、
②『未来企業』(訳1992年,同社)、
③『ポスト資本主義社会』(訳1993年、同社)
 

09ドラッカー新訳『マネジメント』①

2002.05. 
堀越芳昭
ドラッカー『マネジメント』レジュメ

Ⅰ.要約
「日本の読者へ」
 ・日本:企業も政府も、構造、機能、戦略に関して転換期にある。
 ・転換期にあって重要なことは「基本と原則=変わらざるもの」を確認すること。
 ・「基本と原則」
①マネジメントには基本とすべきもの、原則とすべきものがある。
②基本と原則は、状況に応じて適用していかなければならない。
③基本と原則に反するものは、例外なく時を経ず破綻する。
・マネジメントは、先進社会、組織社会のすべてにとって、欠くことのできない決定的機関になった。
・社会と経済の健全さはマネジメントの健全さによって左右される。
 ・日本の転換期に、国・経済・産業・事業がいま直面している課題は何か、問題は何か、行うべき意思
決定は何か、それらに適用すべき基本と原則は何かを徹底して考えること。

「まえがき」
 現代社会:「多元的な組織社会」
 「組織」をして高度の成果をあげさせることが、自由と尊厳を守る唯一の方策であり、その組織に成果をあげさせるものがマネジメントであり、マネージャーの力である。
 本書の特色:マネジメントの使命、目的、役割から入る。(外から見る。)
 →その課題の次元を見る。→それぞれの次元に何が要求されるか。→マネジメントのための組織と仕
事を見る。→トップマネジメントと戦略をみる。

「序-新たな挑戦」
 現代社会=「組織社会」:主な社会的課題はマネジメントによって運営される永続的存在としての組織の手にゆだねられている。
 現代社会の機能が、組織の仕事ぶりにかかっている。
 「被用者社会」
 マネジメントの重要性
①マネジメントなしに組織はない
②マネジメントは、成果に対する責任に由来する客観的な機能であり、所有、階級、権力から
独立した存在でなければならない。
  ③マネジメントは、企業のみならず他の組織においても必要としている。
 マネジメント・ブームの中心
  ①生産性向上のための科学的管理法
  ②組織構造としての連邦分権組織
  ③人を組織に適合させるための人事管理
  ④明日のためのマネジメント開発
  ⑤管理会計
  ⑥マーケティング
  ⑦長期プランニング
 新しい知識:新しい分野での新しいニーズ
  ①新しいものの創造:起業・イノベーション
  ②企業以外のマネジメント
  ③知識の生産性:知識労働者
  ④グローバル化
 もっとも重大な変化:社会の願望、価値、存続そのものが、マネジメントの成果、能力、意志、価値観に依存するようになったこと。

Ⅱ.補足
   ・組織社会の意味
   ・マネジメントの意味
   ・知識の重要性
   ・人間観の検討
   ・「暗黙知」

Ⅲ.問題点
 1.マネジメントは、所有・権力から独立しているか。
 2.組織社会ではない領域があるのではないか。
 3.組織-組織、組織-個人、組織-非組織の関
係が未解明ではないか。
 4.「使命」は外から与えられるものか。
 

10ドラッカー新訳『マネジメント』②

2002.05.22 
堀越芳昭
ドラッカー『マネジメント』レジュメ

第1章 企業の成果
Ⅰ.要約
2 企業とは何か
 ①企業=営利組織ではない
   ・総合的な経営化学と真の企業理論が存在して いない。→マネジメントが何であり、何を行うべ
きで、いかに行うべきかの議論なし。
   ・利潤動機:利益は目的ではなく条件である。原因・理由・根拠ではなく、その妥当性の判定
基準である。
    高い利益をあげて、初めて社会貢献を果たすことができる。
②企業の目的
・企業とは何か・企業の目的:企業の目的は、それぞれの企業の外にある。
    企業は社会の機関であり、その目的は社会にある。
    企業の目的の定義=顧客を創造すること企業の基本的な機能=マーケティングと
イノベーション
③マーケティング-顧客の欲求からスタートする
    販売とマーケティングは逆である。
④イノベーション-新しい満足を生み出す企業そのものは、より大きくなる必要はないが、
常によりよくならなければならない。
⑤生産性に影響を与える要因
・目的=顧客の創造→富を生むべき資源の活用
=資源の生産的使用=企業の管理的な機能
→この機能の経済的側面=生産性
   ・生産性のコンセプトとして追加すべき要因
1.知識  2.時間  
3.製品の組み合わせ(プロダクト・ミックス)
   4.プロセスの組み合わせ(プロセス・ミックス)
   5.自らの強み
   6.組織構造の適切さ、活動間のバランス
 ⑥利益の持つ機能とは何か
   利益:原因ではなく結果である。
 1.利益は成果の判定基準である。
 2.利益は不確実性というリスクに対する保険である。
3.利益はよりよい労働環境を生むための原資である。
4.利益は、医療、国防、教育、オペラなど社会的なサービスと満足をもたらす原資である。

3.事業は何か
 ①自社をいかに定義するか
    ・意思決定が組織のあらゆる階層において行われている。
 ②われわれの事業は何か
   ・それを問い明らかにすること=トップマネジメントの責任
  ・企業の目的と使命:出発点=顧客、顧客の満足→「事業」:企業を外部すなわち顧客と市場
の観点から見て、初めて答えることができる。
   ・出発点:顧客:顧客の価値、欲求、期待、現実、状況、行動
 ③顧客は誰か:二種類の顧客:消費者と事業者
 ④顧客はどこにいるのか。何を買うか。
 ⑤いつ問うべきか
 ⑥われわれの事業は何になるか 
   ・市場動向:人口構造の変化
   ・経済構造、流行と意識、競争状態、市場構造の変化
   ・満たされていない欲求は何か
 ⑦われわれの事業は何であるべきか
 ⑧われわれの事業のうち何を捨てるか

4.事業の目標
  目標への具体化
①マーケティングの目標
   7つの目標
   目標の前提:集中の目標:「立つ場所」
市場地位の目標:市場シェアの下限と上限
   最大の地位でなく最適の地位を目指すべき
 ②イノベーションの目標
   「何であるべきか」=「将来」の目標
1.製品とサービスにおけるイノベーション
2.市場におけるイノベーションと消費者の行動や価値観におけるイノベーション
3.製品を市場へ持っていくまでの間におけるイノベーション
  最大の問題:
イノベーションの影響度と重要度の測定
 ③経営資源の目標
  1.土地:物的資源 
2.労働:人材
  3.資本:明日のための資金
    衰退の最初の兆候:有能でやる気のある人間に訴えるものの喪失  
 ④生産性の目標
 ⑤社会的責任の目標 
   社会との関係:企業の存立に関わる問題
   企業は社会と経済のなかに存在する被造物である。
 ⑥費用としての利益
   利益:企業存続の条件、未来の費用、事業を続けるための費用
 ⑦目標設定に必要なバランス
   ・利益とのバランス
  ・近い将来と遠い将来との間のバランス
  ・他の目標とのバランス
 ⑧実行に移す

5.戦略計画
 ①戦略計画でないものを知る
・魔法の箱や手法の束ではない。 
・予測ではない。 
   ・未来の意思決定に関わるものではない。
    明日何をなすべきかでなく、不確実な明日のために今日何をなすべきか。
   ・リスクを無くしたり、最少にするためのものでも
ない。より大きなリスクを負担できるようにすることである。
 ②戦略経営とは何か:以下の連続的プロセス
   1.リスクを伴う起業家的な意思決定を行うこと
   2.その実行に必要な活動を体系的に組織すること
   3.それらの活動の成果を期待したものと比較測定すること

Ⅱ.補足
   ①企業の定義
②目的と目標の区別と連関
   ③マーケティングとイノベーション
   ④マネジメント・サイクル
   ⑤それを知るために、そうでないものを知る。

Ⅲ.問題点
   1.「利益は企業の目的ではない」ことの意味
   2.「最大」でなく「最適」の意味
   3.リスクに対する考え方 
 

11ドラッカー新訳『マネジメント』③

2002.06.13 
堀越芳昭
ドラッカー『マネジメント』レジュメ

第4章 社会的責任
Ⅰ.要約
15 マネジメントと社会
企業の社会的責任の意味が変わった=背景
かつて:①私的倫理と公的倫理との関係
    ②働くものに対する責任
    ③地域社会への貢献-後援・奉仕・寄付
今日:「社会の問題に取り組み解決するために、企業は何を行い、何を行うべきか。」
 →マネジメントに対する過信
 →政府に対する幻滅
 →社会のリーダー的存在としてのマネジメントの台頭
3つの物語:ユニオン・カーバイト
  スィフト・デ・アルヘンティーナ
  ある大手鉄鋼メーカ
教訓:社会的責任はマネジメントしなければならない。

16 社会的影響と社会の問題
社会的責任はどこに生まれるか:源泉・所在
①自らの活動が社会に対して与える影響:組織→社会
②社会自体の問題として:組織←社会
  (社会自体の機能不全から生じる)
①自らが社会に与える影響への責任(95~97ページ)
  いかに処理するか:組織の目的や氏名の達成に不可欠でないものは、最小限にすること。
  できればなくすこと。
 理想のアプローチ=影響の除去をそのまま収益事業にすること。
 影響を事業上の機会とすることが理想である。
②社会の問題=機会の源泉
  社会的イノベーションの重要性
  企業が健康であるためには、健全な、少なくとも機能する社会が必要である。

17 社会的責任の限界
   本来の機能を遂行する
   能力と価値観による限界
   権限の限界
    cf:権限と責任の関係

18 企業と政府
     ・重商主義
     ・立憲主義
     ・新しい問題
       背景:①混合経済の進展
          ②グローバル企業の発展
          ③社会の多元化
          ④マネジメントの台頭

19 プロフェッショナルの倫理-知りながら害をなすな

Ⅱ.補足
   1.社会的責任の根拠を何に求めるか。
      ①権限=責任一致の原則  
      ②啓発された自己利益説
      ③利他主義
        企業倫理
   2.公と私との関係をどのように考えるか。
      「公人」の意味 
      「共」の重要性:公共私 
      中間組織の重要性:公的組織と私的組織
の中間にある中間組織
   3.社会的責任と「本業」との関係
   4.社会的責任と企業利益との関係
5.「知りながら害をなすな」の意義
      モーゼの十戒
      自己証明の方法:Aでもない、Bでもない。 
      平凡さ

Ⅲ.問題点
   1.企業に社会的責任はあるのか。
   2.社会的責任と本業・企業利益との関係をどのようにとらえるか。
   3.最近の企業不祥事についてどう考えるか。
・雪印乳業事件
・雪印食品事件
・ダスキン事件
最近の政治不祥事 
・国会議員秘書問題
・政治資金流用問題
・鈴木宗男問題
・外務省問題
・農水省問題
・かつての厚生省問題

参照 [http://homepage3.nifty.com/horikoshi-lec/kou03keieigakunyuumon.htm]

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